福岡市立こども病院

整形・脊椎外科(脊椎)

当科について

診療内容

脊柱変形

特発性側弯症・先天性側弯症・麻痺性側弯症・症候性側弯症などの脊柱側弯症や脊柱後弯症など、すべての脊柱変形の診療を行っています。必要に応じて経過観察・装具治療・手術治療を行っています。脊柱変形は、ある程度まで進行しても小児期には自覚症状がないことが多いのですが、成長終了後も徐々に進行し、呼吸機能・消化管機能の悪化や背部痛の原因となり、日常生活の支障となることがあります。時期を逃さずに治療することが大切です。装具治療は、基本的には側弯の進行防止を目的に行いますが、改善が得られることもあります。手術は、基本的にはインプラントによる矯正固定術と骨移植術からなります。矯正が得られ、将来の進行の心配がなくなることが手術のメリットです。

頚椎疾患

環軸椎回旋位固定・環軸椎亜脱臼(脱臼)・炎症性斜頚・筋性斜頚・頚部痛などが診療対象です。小児期に多い環軸椎回旋位固定は、初期治療が重要であり、重篤な場合は入院・牽引治療を行っています。ダウン症候群などにみられる環軸椎亜脱臼(脱臼)は、程度が強いと脊髄麻痺を生じる危険性があり、手術治療(環軸椎後方固定術)を行います。インプラントや手術法の発達により、術後はカラー固定のみで早期離床が可能となっています。

腰椎疾患

腰椎分離症・腰椎分離すべり症・腰椎低形成性すべり症・腰椎椎間板ヘルニア・腰痛症などが診療対象です。小児の腰痛で多く見られる腰椎分離症は、骨癒合が期待できる場合は運動禁止・コルセット装着による治療を行います。分離症・すべり症・腰椎椎間板ヘルニアで小児期に手術を要することはほとんどありませんが、腰椎低形成性すべり症では、腰痛や神経症状が出やすく手術を行うことがあります。その他にも腰痛の原因となる疾患には、炎症性疾患・腫瘍性疾患・心因性などが潜んでいる場合があり、必要に応じてMRIなどの画像診断や血液検査などを行い、正確な診断と治療をこころがけています。

科の特徴・特色

アクセスマップ

側弯症をはじめとする小児の脊柱変形は、その原因・経過が多彩であり、脊椎疾患の中でも非常に専門性が高い分野です。進行すると外見上の問題だけでなく、呼吸機能・消化管機能の悪化や背部痛の原因となるため手術を要することがあります。当科では、難度の高い手術も行いながら、その経験を蓄積してきました。現在、年間200件程度の手術を行っています。その結果、近年は側弯症を主体として他県からも多数の患者さんをご紹介いただくようになり、外来・手術件数ともに年々増加しております。もっとも多い思春期特発性側弯症の手術はもとより、早期発症側弯症に対するGrowing Rod法やVEPTR(Vertical Expandable Prosthetic Titanium Rib、ベプター)を用いた治療も行っています。VEPTRは従来治療が困難であった肋骨癒合を伴う先天性側弯症などの治療には非常に有効な治療法であり、国内では当院を含め5施設のみが治療施設として認定されています。また、先天性側弯症などの複雑な変形に対しては、コンピューターナビゲーションを用いた安全な手術が可能になりました。出血量の多い側弯症手術では、自己血輸血や回収血輸血などを用いることで一般の輸血はほとんど回避できるようになりました。神経損傷への対策としては術中脊髄モニタリングを行っています。近年、インプラントの発達や手術法の向上により矯正力や固定力は飛躍的に向上し、入院期間も短縮されています。多くの場合2週間程度の入院で治療が可能です。

診療科より

外来診療は月・金曜日で、手術は火・水・木曜日に行っています。当科には「側弯症外来」はありません。すべての外来診療日に側弯症診療を行っているからです。基本的には紹介制ですが、紹介状なしでの受診も可能です。

手術症例の増加により、かなり先まで手術予定が詰まるようになっていますので、特に手術を必要とする患者さんには早めの受診をお勧めします。

診療実績

診療実績

側弯症手術件数の推移
側弯症手術件数の推移グラフ
 
医師紹介
名前 柳田 晴久(Haruhisa Yanagida)
役職 科長(脊椎外科)
専門分野 小児脊椎疾患
所属学会

日本整形外科学会
日本小児整形外科学会
日本脊椎脊髄病学会
日本側弯症学会
日本二分脊椎研究会

主な資格等

日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会指導医
脊椎脊髄外科専門医

名前 山口 徹(Toru Yamaguchi)
専門分野 脊椎・足
所属学会

日本整形外科学会
日本小児整形外科学会
日本脊椎脊髄病学会
日本側弯症学会
日本二分脊椎研究会
日本自己輸血・周術期輸血学会

主な資格等

日本整形外科学会専門医・脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会指導医
日本体育協会公認スポーツドクター

FAQ

FAQ

側弯症は治りますか?どのように治療するのですか?

機能性側弯症や乳幼児期型特発性側弯症といった例外を除いては、基本的には側弯症は進行性の病気です。とくに成長が著しい時期(乳幼児期や思春期)に進行しやすくなります。よって、できるだけ早期に発見して早期に治療をする必要があります。装具治療で進行を押さえたり、手術によって矯正したりすることは可能です。

しかし、すべての側弯症に治療が必要なわけではありません。進行の程度には個人差があります。程度が軽い場合は定期的にレントゲンを撮って経過をみていきます。側弯の程度は立位でのレントゲンで角度を測って評価されます。カーブの上下で一番傾きが大きい椎体を選び、それらの椎体に平行に引いた線のなす角(Cobb角、コブ角)によって評価します。正常の脊柱では2本の線は平行ですのでCobb角は0度ということになり、Cobb角が大きいほど側弯変形が強いことになります。一般的にこのCobb角を参考にして治療法が選択されます。Cobb角20度未満は経過観察、20度以上で進行性なら装具治療、45度を超えるなら手術治療が選択されますが、これらはあくまでも目安の数字です。治療方針の決定はCobb角だけでなく、全身状態・合併症・本人や家族の意思などを総合的に判断して決定します。

装具治療とはどのようなものですか?

装具を装着し矯正位を保つことにより側弯を治療するものです。以前はMilwaukee braceという首の周囲にリングのついた装具も用いられていましたが、現在ではアンダーアームブレースという両脇から下に装着する装具が用いられることがほとんどです。装具のデザインなどには地域や病院によって差がありますが、矯正位を保持し、進行を防止する目的は共通です。長時間装着したほうが効果があることは医学的証拠(エビデンス)があります。基本的には入浴や運動時以外は装着しますが、夜間装具(就寝時のみ装着)でも効果はあります。装具装着は肉体的のみならず精神的にもストレスを生じやすいので、この点への配慮は必要となります。

側弯症は成長が止まれば進行しないのですよね?
これは有名な誤解です。軽度の側弯症(30度未満)では確かに成長終了後は進行しにくいですが、40度を超えてくると成長終了後もゆっくりと側弯は進行します。このことは実際に患者さんの自然経過から明らかになっています。この点こそがこの病気の悩ましいところであり、40度を超えてくると手術を考慮し始めるのはまさにこの理由からです。
手術を勧められました。現在何も困っていないのですが手術が必要でしょうか?

45度を超えるような側弯症であっても、10代では自覚症状に乏しいのが側弯症の特徴です。しかし、45度を超えるような側弯症では成長終了後もゆっくりと変形が進行していきます。よって、10代では症状がなくても、将来、容姿や脊柱バランスの問題・肺機能低下・腰背部痛などに悩まされることになります。こういった将来の問題を未然に防ぐために手術をお勧めするわけです。

手術治療とはどのようなものですか?

基本的には、インプラント(スクリューやロッド、主にチタン製)を用いて側弯を矯正し、固定するものです。さらには固定範囲内の背骨を骨癒合させる目的で「骨移植」を行います。骨移植は手術中に局所から採取した本人の骨を用います。ただし、後述するような固定をせずに伸ばしていく方法(Growing Rod法やVEPTRなど)もあります。いずれの方法にしても、手術の目的は

  1. 側弯を矯正すること
  2. 将来の進行も防止すること

の2点です。

Growing Rod法(グローイングロッド法)とはどんな方法ですか?

たとえば思春期型特発性側弯症では、ほぼ成長終了の時期に手術ができるので、脊柱を固定しても成長抑制の懸念はありません。しかし、乳幼児期に発症し高度に進行した側弯症ではインプラントで固定してもその後も脊椎は成長するので新たな変形進行を招きます(Crankshaft現象と呼びます)。かといって成長終了まで待っていると側弯が更に進行し、治療が困難になる可能性があります。そこで脊椎の成長を妨げずに側弯の矯正を行っていくことを目的に行われるのがGrowing Rod法(グローイングロッド法)と呼ばれる方法です。この方法では、カーブの上下2椎体程度のみにインプラントを設置し、それを2本のロッドで連結します。このロッドは延長できるようになっており、これを6カ月に1回程度延長していく方法です。最終的には成長終了が近づいて固定術を行います。

VEPTR(ベプター)とはどんな方法ですか?

VEPTRとは、Vertical Expandable Prosthetic Titanium Ribの略であり、従来のインプラントとの違いは肋骨間を頭尾側方向に開大できる点です。これは先天性に肋骨が癒合している先天性側弯症(胸郭不全症候群)の患者さんの治療には大きな力を発揮します。胸郭を拡大できるわけです。肋骨間を開大するため呼吸が不安定となりやすいので、初回手術後数日間は集中治療室での人工呼吸器管理が必要となります。また、6か月に1回程度の入院と延長手術が必要です。このように患者さんやご家族の負担は大きい治療法ですが、従来は治療法のなかった一部の先天性側弯症患者さんにとっては画期的な治療と言えます。

自己血輸血とは何ですか?
側弯症の手術ではある程度の出血は避けられません。出血量は体格や手術の内容により異なりますが、術中・術後を合わせると1,000ml以上の出血が稀ではありません。すると輸血が必要となります。しかし、側弯症の手術は緊急手術ではありませんので、術前に計画的に自分の血液を貯える(貯血する)ことができます。当院では体重によって1回につき200~400mlの貯血を行い、血液センターで凍結保存し、最終的には400~1,600ml程度の自己血貯血を行っています。手術の際にはこれを解凍して使用します。これが自己血輸血です。この方法を用いれば、想定外の出血がない限り、一般の輸血を行う必要はありません。自分自身の血液を輸血するわけですからウイルス感染や拒絶反応などの輸血合併症がないという大きなメリットのある方法です。
側弯症手術は危険な手術だと聞きました。手術の合併症にはどのようなものがありますか?

確かに簡単な手術ではないし、様々な合併症を想定して臨む手術です。リスクをゼロにして手術を行うことは不可能です。主な合併症としては、術中の合併症として

  1. 出血
  2. 神経損傷
  3. 心肺合併症

など、

術後の合併症として

  1. 呼吸器合併症(肺炎など)
  2. 上腸間膜動脈症候群(嘔吐)
  3. 細菌感染
  4. インプラント折損・脱転

などが挙げられます。これらの合併症にはそれぞれ対処法があります。どのような側弯症にどのような手術をするかによってもそれぞれの合併症のリスクも違ってきます。合併症については、術前に十分に説明を受け、納得して手術を受ける必要があります(インフォームドコンセント)。主治医から納得いくまで説明を受けてください。

手術する場合、入院期間はどれくらいですか?

側弯症の程度、手術内容や合併症の有無にもよりますが、2週間程度の入院となることが多いです。目安として、手術後4~5日目頃より歩行再開、10日目頃シャワー浴、2週前後で退院となります。Growing Rod法やVEPTRの延長手術の場合は1週間程度の入院です。

役立つ情報のリンク

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